業務改革リーダーの心得

オフィスの現場で業務改革に取り組むリーダー達へ、壁を乗り越えてゆくためのノウハウや心得をお伝えします。

業務改革にプロジェクトマネジメントは必要か

一般に、ある程度以上の規模のシステム構築では、プロジェクトマネジメント(以下、プロマネ)が必須とされる。そのための方法論もさかんに研究・発表されているが、中でもグローバルスタンダードとして著名なのは、米国の非営利団体PMIが策定しているPMBOKである。世界中から集めた方法論やツールのベストプラクティスを、スコープ、タイム、コスト、品質…など10の切り口で整理し、エッセンスとして凝縮している。もとより読み物というより、辞書的なものなのだが、その分量は半端ではない。さて、これを通常の業務改革プロジェクトでどこまで使えるか、あるいは使うべきか、である。

業務改革もPMBOKの定義からいえばれっきとしたプロジェクトである。しかし、大規模システム構築などを伴わない、業務そのものの業務改革において、プロマネは必要だろうか。

結論からいえば、「ある程度」は必要である。どの程度か。最低限、やるべきことに抜け漏れがない程度に、である。

 

1.TODOリスト

1人で身の周りから始める業務改革程度では、まずプロマネは必要ない。PMBOKなどの方法論の特徴の一つは、プロジェクトの推進において、課題の整理、合意内容の確認、経緯の記録などにドキュメントを多用することである。しかし、個人で行う取り組みであれば、大抵、自分自身で課題を把握・整理し、記憶し、管理できる。つまり、ドキュメント化する必要がない。

ただし、やるべきことが多くなると忘れてしまうことも出てくる。そこではじめて必要になるのが、やるべきことを列挙したTODOリストである。さらに、業務改革を組織の仕事として行うようになると、期限を示すことが必要になってくる。忘れないよう、TODOリストに期限を書き込む。週に一回、進捗をチェックする。実のところ、業務改革の個々のテーマのプロマネはほぼこれで用足りてしまう。

 

2.WBS(Work Breakdown Structure)

さらに、規模が大きくなり、あるいは複数のテーマが組み合わさり、数ヶ月以上の中長期で取り組むことになった場合、組織内での中間的な進捗報告も必要になってくる。こうなったら、TODOリストの項目をいくつかの段階に分けて、それぞれの期限を書き込むようにしていく。作業範囲が拡がれば作業内容を追加し、作業の量が多くなれば段階に分けて分解してゆく。項目が増えてくると見ずらくなってくるので、ある程度のまとまりごとに分類分けする。

これがPMBOKでいうスコープマネジメントの中核となる、WBSと呼ばれるものの原型だ。これを週に一回程度、メンバー間でチェックする。あとは、規模が大きくなっていっても、その分解された項目や分類の数が増えていくだけである。

 

3.ステークホルダー(利害関係者)リスト

ここで、視点を変えてみる。業務改革を進める過程では、様々な利害関係者との調整が必要になる。このとき調整先が漏れていると、あとで思わぬ足止めがかかったり、感情的なしこりが残ったりする。ステークホルダーの数が多い場合は、忘れないよう、ステークホルダーリストを作る。

また、ときにステークホルダーの利害関係が広範囲に及び複雑に絡み合う場合がある。そして、その関係性を上司などに理解してもらい、ときに説得工作に動いてもらう必要も出てくる。そんなときは、さらに、関係性を図で整理してみる。PMBOKの「ステークホルダーマネジメント」になると、もっと戦略的に関係性を捉えて計画化していくのだが、通常のプロジェクトで必要になるのは、まずここまでであろう。

 

4.業務改革で必要なプロマネ技術

だいたい以上である。つまり、業務改革に必要なプロマネは、①1人で取り組むうちはTODOリストが、②複数人・数ヶ月以上のプロジェクトになったらWBSが、③利害関係者が覚えきれないほどに増えてきたらステークホルダーリストがあれば、ほぼ用が足りてしまう。
もちろん、業務改革に大規模なシステム構築や技術開発などハコモノが絡むようになると、そう簡単にはいかなくなる。カネがかかるからである。カネがかかる以上、無駄は許されない。可もなく不可もなく、予定通りに達成するのが、プロマネが定義する成功である。このため、方向性としては、計画からのブレをなくすことが価値であり、無理をしてプラスの価値を生むことはプロマネ的には、失敗とさえ言える。(注:PMBOKでも当初計画の変更を否定しているわけではなく、「変更管理」は重視されている。しかし、積極的に肯定はしていない。)

 

5.業務改革プロジェクトの特徴

対して、業務改革は、真の課題を探ってゆく、一種の「探求」の過程なので、ダイナミックにプロジェクトそのものを変えてゆく傾向を持つ。取り組み方も、取り組む内容も、ときにはゴールさえも、生き物のようにどんどん変わっていく。問題の本質を発見し、現状からの飛躍の可能性が見えたら、ときには当初の狙いを遥かに飛び超えて、大きな成果を狙いにゆく。それを達成すれば、その成果の大きさに応じて評価される。つまり、プロマネと業務改革の間では評価される軸が異なり、本質的なところで価値が相容れないのだ。

業務改革でも、最終的な目的やビジョンはブレてはならない。軸の定まらない、行き当たりばったりの改革など誰も相手にしない。しかし、いったん決めた達成の仕方、道すじに拘ってはならない。業務改革では、精緻にプロマネ計画を立ててもまず意味がない。それどころか、計画に縛られ過ぎていると、せっかくの機会を逸してしまうことがある。プロマネに時間を使っているくらいだったら、多少のボロがあっても、一つでも多くの改善をしたほうがよいこともある。

 

業務改革においてプロマネとは、大失敗をしないための安全弁であって、それ以上でも、以下でもないのだ。

 

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業務改善のつもりが改悪になってしまうのは何故か

業務を改善したつもりなのに、かえって非効率になってしまうことがある。例えば、次のようなケースである。

A)データ管理を効率化しようとデータベースシステムを導入したが、ほとんどデータは使われないまま登録作業やメンテナンス作業ばかり増えてしまった

B)帳票が多すぎるとの指摘を受けて削減・集約化したが、例外処理が増えてかえって煩雑になってしまった。

C)課から係に権限移譲をして意思決定のスピードを上げようとしたが、業務品質が確保できなくなった上、係間での非公式の調整が必要になり、課全体としての生産性がかえって低下してしまった。

いずれも珍しい話ではない。おそらく多くの方がこれに近い光景を目にし、あるいは自分自身で体験しているのではないだろうか。ではなぜ、こうした、改善と改悪のすり替えが起きてしまうのだろうか。

 

1.たった一つの原因

いずれも原因は一つ。現場の声を聞かずに業務改革をデザインしてしまったのである。あるいは、声を聞くべき相手を見誤り、結果として、現場の声を拾えていなかった。前述の例であれば、次のようなケースである。

A)コンサルタントが提案した、システム導入によるバラ色の将来像に企画担当者がのめり込んでしまい、あるべき論によって、現場の慎重論を押し切ってしまった。

B)帳票が多すぎる=非効率とのトップの思い込みで鶴の一声が下りてしまい、現場を離れたところで打ち出された削減目標数値ありきで、無理矢理に帳票数を削ってしまった。

C)本社スタッフチームによる組織分析・検討の結果、現場への権限移譲の必要性を結論付けたが、初期に一通りのヒアリングをした以外に、現場への影響確認は行われなかった。

これらはいずれも、その原因において共通している。すなわち、現場の声を拾わずに企画してしまったことにある。

 

2.外部の視点を持ち、現場の声も拾えるリーダーが必要

もちろん現場の声を拾った企画=良い企画というわけではない。現場で長年働いているメンバーからは、新しい発想は出づらくなっていることがある。着任当初は、組織や業務の課題に問題意識や違和感を感じていたとしても、実務の中に埋もれているうち、やがて何も感じなくなってしまう。こうした状況にいったん陥ると、なかなか新たな発想は出てこない。外部からの新鮮な視点が必要になる。

そこで、部外メンバーによるプロジェクトチームや、外部からコンサルタントが投入されることになる。彼らが現場の実態から乖離せずにプロジェクトを進められるかどうかは、リーダーの適性によって左右されるところが大きい。

人の話を我慢強く聞けること。

自分から現場の声を聞こうとする姿勢を持っていること。

人の意見に流されない芯を持っていること。

こうしたリーダーであれば、あるいは主要メンバーがいれば、プロジェクトは方向性を誤らないだろう。業務改革プロジェクトは、何が課題で、どうすればよいのか、外からは見えにくい。何を、どこまで行うかは、結局のところ、リーダー1人または一握りのコアメンバーの腹一つで決まってくるのだ。

 

3.出発点で間違えると軌道修正が効かない

不幸にもそうした人材に恵まれず、方向性を見誤ったまま、プロジェクトがいったん走り出してしまうと、途中で軌道修正することは難しい。出発点に近いところで間違えてしまっているからだ。多くの場合、ゼロからやり直した方が早いのだが、これがなかなか難しい。全部やり直すとなると、提案者は必死に抵抗するのが常である。責任を免れないということもあるが、それ以上に、そもそものタテマエ論は正しいし、本人は完全な善意で信念を持って取り組んでいるからだ。だからこそ、始末が悪い。それを宥めながら、着地点を探っていくためには、また大きな労力が必要になる。

 

まったく、現場の声を聞かずに始める業務改革プロジェクトほど罪深いものはない。

 

現場の声を聞かないという過ちだけは、絶対に、犯してはならない。

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歪んだ「組織内官僚」とどう向きあってゆくか

複雑怪奇なルールができるまで

組織が大きくなればルールが必要になる。ルールはやがて解釈や状況変化に応じた改訂が必要になる。新しい解釈を示せば、それが新たなルールとなり、一種の判例法のように積み重なってゆく。

解釈や改訂は常に整然と行われるわけではなく、そのときどきの特殊事情が加味される。つまり、あえて肝心なことを明記しなかったり、婉曲な表現に止めたりする。こうなると、本当の意図は、当事者にしか分からない。時間とともに構成メンバーが入れ替わってゆくと、やがて、理解しがたい、複雑怪奇なパズルが後に残る。

「組織内官僚」の誕生

そこで、こうした複雑なルールの解釈と改訂を司る専門家としての「官僚」が必要になる。「官僚」は程なく、そのルールに関して組織内でナンバーワンの存在になり、様々な相談を受けるようになる。それなりに賢くないと務まらないし、本人もそれを自覚している。解釈一つ間違えるだけで、大きな混乱が起きるリスクもわきまえている。つまり、仕事の重要性を自覚している。しかし、仕事内容自体が難解なため、本当のところ周りからは理解してもらえない。また、組織の本流にいることもない。

「歪んだ官僚」の誕生

こうした状態が長年続いて行くと、ときに、自信と疎外感、プライドと被害者意識が入り混じった、歪んだ性格になってゆくことがある。こうした「歪んだ官僚」は、横柄で、人を見下し、人の意見を聞こうとしない。説明も杜撰で、それを理解してもらえないと相手を面罵する。およそ親切心や思いやりの心の片鱗も感じられない。外部からルールの見直しを求めようものなら、牙を剥いて反論する。まさに世間一般の人びとがイメージする官僚のネガティヴな姿そのものである。

「歪んだ官僚」はどこにでも

こうした「歪んだ官僚」は、官民問わず、一定規模以上の組織には、どこにでも存在する。また、誰もがそうなる可能性を持っている。組織ある限り影のように付き纏う、普遍的な必要悪なのである。個人的な性格の問題ではない。
「歪んだ官僚」に無礼な振る舞いをされると誰もが思わずカッとなってしまうが、彼/彼女を個人攻撃しても、問題は解決しない。一層事態が悪化するだけだろう。その「官僚」は組織内で唯一無二の存在である。上司ですら、おいそれと命令できない。なぜなら、そのルールを本当に理解しているのは彼/彼女だけであり、頼らざるを得ない部分があるからだ。

「歪んだ官僚」と出逢ってしまったら

業務改革を進める上で、こうした「官僚」との接触あるいは対峙は避けられない。この場合、同じルールであっても、それを司るのが「歪んだ官僚」であるか、歪んでいない「素直な官僚」であるかによって、その成果には大きな差が出てくる。それまでデッドロックに陥っていた問題が、担当替えがあった途端、一気に解決することがある。その逆もまた然りである。理不尽といえば理不尽だが、それは事実として受け容れるしかないのだ。重要なことは、業務改革に携わる人びとが、その事実を理解することだ。

「歪んだ官僚」は難攻不落

力押しで押しても決して引かないだろう。理詰めで攻めても話は噛み合わないだろう。トップダウンで落とそうとしても、相手の上司は部下との対立を避けようとするだろう。「歪んだ官僚」は組織のルールを熟知しているがゆえに、自分の立場を失うような、ルールを逸脱する振る舞いは決してしない。何より、必ずある面では、彼/彼女の主張は正しいのだ。100%間違ったことなど決して言わない。また、ある種の使命感を持っており、頭も良いので、たいてい自部門内では一定の評価を得ている。

対処方法は2つしかない

こうしたとき対処できる方法は2つだ。

一つは、その官僚よりもルールに詳しくなってしまうのである。彼/彼女は強気でい続けるための拠り所を失い、問題解決の道が拓けるだろう。しかし、ルールに習熟するのは容易なことではない。時間の投入はもちろん、ルールを教えてくれる協力者、いや教育者を見つけなければならない。ハードルは決して低くない。

2つめの方法は、発想を変えることだ。何度かやり取りをしていると、彼/彼女が、本当にこだわっているところはどこなのかが見えてくる。問題解決の方法は大抵、いく通りもある。仲間と知恵を出し合って、他の選択肢によって官僚との衝突を避けつつ、問題を解決する方法を考えてみよう。大手門を突破できないのであれば、搦め手から攻めてみよう。意外なほど簡単に解が見つかったりするものである。

「歪んだ官僚」を甘くてみてはならない。出逢ってしまったら、潔く、急がば回ることにしよう。

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業務改革リーダーとしての飛躍のチャンスを掴む

1.チャンスを掴めるかどうかで業務の将来が変わる

「業務改善」は定着させ、高度化させるべき「プロセス」であり、「業務改革」は成功させるべき「プロジェクト」である。
業務改善では何よりも活動を継続し、プロセスとして組織に定着させることが重要である。組織を変えていく取り組みなので、良きリーダーに恵まれるかどうかという与件はあるものの、運不運によって取り組みの成否が左右される余地は大きくない。

対して、業務改革は関係部門との相互作用の中で成果を生み出していくプロジェクトなので、必然的に、様々な外部要因が絡んでくる。それがどう作用するかによって、当初の想定を超えた活動成果につながることもあれば、残念ながらとん挫してしまうこともある。そこには大きく「運」が作用してくる。

チャンスはそう巡ってこない。それは一度きりかもしれないし、少なくとも、同じ状況で同じチャンスが巡ってくることはない、一期一会のものである。したがって、ここ一番というときには無理をしてでもチャンスを掴みにいかなければならない。業務改革リーダーが大きな成果を望むなら、チャンスに鈍感であってはならない。

ここでいうチャンスとは、組織改編、システム導入、ルール変更、人事異動など、改革対象業務の関係部門にとっての揺さぶりとなるような変化のことである。こうした変化に便乗することで、通常であれば到底達成できない、あるいは膨大な調整工数がかかるような改革を、いとも簡単に達成できてしまうことがある。どさくさに紛れて果実を掴み取ってしまうのである。

筆者はこうしたチャンスをモノにすることで、その後の改革の潮目が大きく変わる光景を何度も目にしてきた。成し遂げてきた改革の中には、チャンスがなければ到底不可能だったものも少なくない。

2.チャンスを掴むにはどうすればよいか

とはいえ、ただでさえ忙しい日常の中で、なんの前触れもなく外から入ってくるチャンスに反応し、掴みにいくのは生易しいことではない。自分が良くしようとしている業務の将来まで見据えて、大局的に判断する必要がある。当面は辛くても、ここで踏ん張ることによって得られる見返りは、とてつもなく大きいかもしれないのだ。

ではどうやってチャンスを掴むか。チャンスを掴むきっかけには以下の3つのパターンがある。
①外から降ってきたチャンスを受け取る
②外部で起きていているチャンスを自ら掴みにいく
③自らチャンスの気運を作り出していく

①は受け取るかどうかを判断するのみである。業務改革リーダーが腹を括れるかどうか、また、括るべきかどうか。その一点に尽きる。

②のように、外部で起きていているチャンスを自ら掴みにいくためには、日頃アンテナを貼っておくことが必要となる。例えば、組織内外の連絡用メーリングリストに登録する、情報発信・共有のためのメルマガを購読する、SNSに参加するなど、常に新しい情報が流入するような仕組みを作っておく。情報が多すぎると、それはそれで問題はあるのだが、明確な関心や問題意識を持っていれば、タイトルだけ流し読みしてても、関係しそうな情報は自然と目に飛び込んでくるものである。あまりきちっとした作業として固める必要はない。

もう一つ、日頃から周囲に自らの問題意識や取り組みテーマをアピールしておくことも有効である。こうしておけば、周囲がキャッチした情報を伝えてくれることも、ままあるし、理解者が増えれば、思わぬところで力を貸してくれたり、活動を擁護してくれたりすることもあるからである。

次に、感知したチャンスを、どうやって掴みにいくかである。これには多少の図々しさとスピードが重要となる。もともと自部門抜きでも動いている話なので、グズグズしていればチャンスを逸してしまう。筆者の感覚では、動くべきは即日である。情報が発信されたということは、組織が何らかの変化を起こしているということである。組織は動かないときは何年でも硬直しているが、いったん動き出すと数日単位で状況が大きく変わっていく。その船に自分も乗せてもらうのである。まずは事実関係を正確に掴む。そして、ときには強引に、組織の変化に便乗し、自ら達成しようとする取り組みと同期させてゆくのである。

3. 自らチャンスの気運を作り出していく

最後に③だが、人間は、自らチャンスを作り出すこともできる。自らが本当にやるべきと信ずることは、これによって達成するしかない。どうすればよいか。

まず、無風状態のところから風を巻き起こし、組織を動かしていくのだから、持続する、確固たる信念が必要である。このためには、どんな逆境にも耐え得るような、強固な改革のコンセプトが必要だ。また、追い風がない以上、前進するときには常に逆風にさらされることになる。これに耐え続けられるだけの理論武装も必要だ。

なぜそれを行なうのか。どうしてもやらねばならないのか。最終的にどのような姿を目指すのか。いつまでに成し遂げねばならないのか。誰がそれを望み、望んでいないのか。メリット・デメリットは何か。どんなリスクがあり、どう対処するのか。過去あるいは他部門で参考となる事例はなかったか。実現した後に何が変わり、変わらないのか。どうやって実現するのか。誰と調整する必要があるのか。

このあと数知れぬ試練に耐えていかなければならない以上、こうしたコンセプトづくりにはいくら時間をかけても、かけ過ぎることはない。同僚や関係部門の感想やアドバイスを求めながら、徹底的に詰めることだ。ここでの検討の積み重ねが、その後の説得の際、目に見えぬ「迫力」となってゆく。決して無駄になることはない。

いったんコンセプトが固まれば、キーメッセージも固まってくるので、あとはそのメッセージを広く関係者に繰り返し説いて廻るのだ。こうして始めて、少しずつ「風」が吹き始める。まずはその小さな風で動かせる範囲のことに手をつけていくのだ。実績を積むごとに「風」は力を増していく。そしてやがて大きな業務改革をも実現するうねりとなっていくのである。

4. チャンスを掴みにいく人間になる

人は一生の中で、いくつもの岐路に出会う。チャンスに巡り合ったとき、それを掴みにいくか、受け流すか。その一つ一つの決断が、業務改革リーダーとしての器を決めてゆく。業務改革に失敗しても、人の命にかかわることは、まずない。失敗してもいいのだから、挑戦しよう。禍根を残すような不誠実な行いをしない限り、失敗しても再起はできる。否、諦めない限り失敗はないのだ。

 

チャンスを掴みにいこう。

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なぜ業務改革プロジェクトは失敗してしまうのか

以前、オフィスでの業務改革が進まない理由として、製造現場と違って、課題が人間そのものであり、これに対応する有効な方法論が確立されていないためと説いた。業務改革には、こうした問題解決の難しさのほか、プロジェクト運営の難しさがある。

 

業務改革のプロジェクトは、途中でとん挫したり、骨抜きになったり、自然消滅したりすることが実に多い。元手がかからないので、わりと気軽に立ち上げられるものの、なかなか最後まで行き着かない。業務を分析し、課題を抽出したところで終わってしまうことも、また多い。

 

なぜだろうか。筆者は業務改革プロジェクトが失敗する原因として、大きく以下の3つのパターンがあると考える。

①責任者の関心が持続しない
②関係者間での利害対立が解けない
③そもそもやる必要性が感じられない

 

①責任者の関心が持続しない

業務改革プロジェクトが開始されるパターンには大きく、経営上あるいは部門運営上の要請からトップダウンで始まるものと、現場ニーズからボトムアップで始まるものの2通りがある。どちらが成果が出やすいかといえば、圧倒的に後者である。なぜかといえば、通常このケースでは、改善に対して強烈な、持続する関心があるからである。
前者の場合でもトップの強烈なコミットメントがあれば、大きな成果が出る。最悪なのは、トップダウンで始めたにも関わらず、アイデア出しを現場に丸投げするパターンだ。まずろくな成果は出ないが、実情はこのパターンが最も多い。責任者にとって楽だからだ。しかし、現場にとっては迷惑この上なく、貴重な戦力を無駄に疲弊させること間違いなしである。

 

②関係者間での利害対立が解けない

ある部門の業務改革が他の部門の業務負荷やコストの増加をもたらす場合がある。組織全体でみればプラスに作用するとしても、負担が増える部門に限ってみれば改悪であり迷惑でしかない。こうした場合、関係者間あるいは部門間での利害調整を担う機能がなければ、いつまで経っても膠着状態は解けず、やがて改革は座礁する。
現場部門内で閉じている改革では、当然ながらこうした問題は起こりにくい。もともと利害は一致しているからだ。要は、大組織において、トップが思いつきで始め、IT予算も付けず、自ら調整し決断する意思も示さないプロジェクトは、失敗しやすいということだ。

 

③そもそもやる必要性が感じられない

商品が売れなければ、会社は早晩倒産する。しかし、業務改革が進まないからといって、会社がそう簡単に傾くことはない。ならば、会社が業務改革より営業を重視するのは当然である。また、商品開発やシステム構築にはお金がかかる。いったん資金を投入してしまうと、途中でとん挫してしまえば、責任者は責任を問われる。しかし、業務改革の場合、それがIT投資を伴うものでない限り、仮にとん挫したとしても、せいぜい投入した人的リソースが無駄になるだけである。人的コストも、成果物も、目には見えにくいので、ごまかしやすいし、言い訳もしやすい。しょせん業務改革は「しなくてもいい」ことが多いのだ。

 

さて、このように失敗することが多い業務改革のプロジェクトだが、どう取り組めばよいのか。

実は、上記の3つのパターンは、いずれも同じ原因で起きている。すなわち出発点となる目的が関係者間で共有できていないのだ。どこを目指すのかという目的が共有されないままプロジェクトを始めてしまうから、関心は持続しないし、関係者間での利害対立は解けないし、そもそもやる必要性が感じられないのである。従って、業務改革プロジェクトを成功させるには、関係者間で明確な目的を共有することが出発点となるし、目的を共有できる範囲が、いま業務改革リーダーたるあなたが取り組める範囲なのだ。それ以上に手を広げれば、まず成功は覚束ない。

 

現場起点で始める業務改革が成功しやすい理由もここにある。すなわち、範囲が限定されているから目的意識を共有しやすいし、共有できる範囲でしかプロジェクトも立ち上げられないからである。取り組む範囲を限定することが常に正しいというわけではない。現場主導の業務改革はときに部分最適に陥り、組織全体としては、別の課題を生み出すことにもなりかねないからである。風呂敷は広い方がよい。ただし、目的意識を共有できる範囲でだ。それさえできれば、たいていのことは達成できる。全社で目的意識を共有できれば全社改革さえも実現できるだろう。あとは業務改革リーダーの意志次第だ。

 

業務改革プロジェクトの目的は、その目的意識を関係者間で共有できる範囲で設定しよう。

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破壊衝動に身を任せない

誰もが破壊衝動の芽を持っている

人はときに、何かを破壊したい衝動に駆られる。普段は平穏に過ごしていても、いったんストレスの強い環境に置かれ、イライラが募ったとき、そうした衝動に駆られた経験は、誰しもが持っているのではないだろうか。遡れば、我々は幼児期の頃から、そうした感情の芽を持っていた。積み上げたブロックは理由もなく壊したくなったし、わざと蟻を踏み潰したこともあった。そうした一種の破壊衝動ともいうべき感情は、誰しもがその芽を持ち続けている。

破壊衝動にはプラスの面もある

業務改革と破壊は、切っても切れない関係にある。業務改革とは本質的に、何かを部分的に破壊し、作り直さなければ達成できないからである。したがって、業務改革に関心を持つ人は、他の人より大きな破壊衝動を持っている。これに対し、破壊衝動が少ない方は、より穏やかに、現状業務の延長線上で行う業務改善の方を好む。

破壊衝動は、業務改革にとってプラスに働く場合がある。ときにそれが、旧態依然とした現状を破壊する推進力となって、改革が当たり障りのない内容に後退することを防ぎ、エッジの効いた内容へと高めることがあるからである。

破壊衝動のマイナス面を甘く見てはならない

しかし、ここで強調しておきたいのはマイナス面についてである。

破壊衝動が強い方にとって、業務担当者が日々、真面目に取り組んでいるルーチンワークは、許しがたいほど非効率で非生産的なものに見えてしまうことがある。そしてときに、そうした業務を破壊することにサディスティックな快感を覚えてしまう。これがエスカレートしていくと、破壊そのものが自己目的化していく。結果、業務や組織に拭いがたい傷跡を残してしまう。

破壊衝動に駆られて、過激な業務改革を強行した結果、大きな問題を引き起こして組織内での立場を失い、二度とその分野に足を踏み入れられなくなった人を、筆者は目にしてきた。そうしたリーダーはもともと優秀な人物であることが多いだけに、組織にとって、これほどの悲劇はない。

破壊衝動はコントロールしなければならない

業務改革を行う中では、ときに一歩引くこと、あるいはきっぱり諦めることが必要となる。一見無駄に見える作業が、実は組織にとって欠かせない役割を担っていることもあり、改革をした結果、得られるメリット以上に、大きなデメリットが現れてくることも少なくないからだ。

破壊衝動をコントロールし、"建設的"に活用するのは簡単ではない。衝動は思考を麻痺させる。破壊衝動に捉われてしまった人は、自分の判断力が正常でなくなっていることに気づかない。そうした人の特徴は、人の話、特に、破壊しようとしている業務に携わる人々の抗弁が耳に入らなくなることだ。

破壊衝動に囚われていないかを確認する

もし自分が破壊衝動に捉われているかも、と感じたら、そうした相手の言い分を、きっちり受け止め、聞くことができているだろうか、と自分に問い直してみることだ。相手が100%間違っているとしか思えなかったとしたら、破壊衝動に囚われているとみて、まず間違いない。

こうして一歩立ち止まり、自分が破壊衝動に囚われていないかを振り返ることができれば、足を踏み外す危険を減らすことができる。とはいえ、自分で自分の状態を把握することは現実的には難しい。そこで大事なのは、苦言を呈してくれる同僚である。率直に意見を言ってくれる仲間を是非大事にしておきたい。

破壊衝動は効きの強い薬である。適量を適切な場面で使えば、威力を発揮し、改革の推進力となる。しかし常に、中毒になってしまう危険を伴う。いったん中毒になると、ときに組織や業務、そして業務改革を遂行する本人を破壊的な状況に追い込んでしまう。その危険性を自覚し、意識してコントロールすることが必要だ。

破壊衝動に身を任せてはならない。

 

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業務改革リーダーはアイデアマンでなければならないか

業務改革にアイデアは必要か。
これは100%YESである。複雑な問題を解決しようとすると、どうしてもその解決策も複雑に考えてしまいがちである。こうしてがっぷり問題と組み合っていると、複雑な仕組みをどう取り扱うかに心を奪われるあまり、ときに自分達がそもそも何をしたかったのかさえ、見失ってしまうことがある。

 

そんなとき、それまで黙って話を聞いていた若手メンバーが放つ、「そもそも⚪︎⚪︎が問題なのであれば、⚪︎⚪︎自体をなくしてしまえばいいんじゃない?」といったひと言が、一気に事態の突破口を開くことがある。こうしたコロンブスの卵のようなアイデアの価値は計り知れない。そのアイデア一つで、その後何年にもわたって業務負荷を何割も削減してしまうこともあるのである。

 

では業務改革リーダーはアイデアマンである必要があるか。
答えはNOである。なぜなら、アイデアはリーダーでなくても出せるからだ。リーダーの仕事は、アイデアを持っている人の協力を取り付け、「場」をつくってアイデアを引き出し、引き出したアイデアを取捨選択し、そのアイデアを実行することである。むしろ、中途半端にアイデアを自分で持ちすぎると自分のアイデアに捉われて、こうしたリーダーとしてより大事な役割を果たしにくくなってしまう。

 

それでも業務改革リーダーは、改革の最前線にいるだけあって、他のメンバーより多くのものが見えており、良質なアイデアも浮かびやすい。しかし、あえてそのアイデアを自らアピールすることは控えておいた方がよい。あたかも改革チームとして出したアイデアであるかのように振舞っていくのだ。そうすることで、メンバーは、そのアイデアを自分のものとして実行しようとしてくれる。他方で、他のメンバーからアイデアが出てきたときは、手放しで賞賛しよう。そのメンバーは否応なく奮い立ち、協力してくれることだろう。

 

自己顕示欲は人間の根源的な欲求の一つである。これを抑え込むことは簡単なことではない。大政治家ですら、その誘惑に抗しきれない。だから、せめて自分のアイデアを自慢する程度には、他のメンバーのアイデアを賞賛することにしよう。そして、自分が上げた成果を、自分だけでなく、チーム全体のものとして語るようにしよう。ここまでできれば、業務改革のプロに近いところまで来ている。業務改革リーダーのもとには次々とアイデアが寄せられ、さらに大きな成果を生み出していくことになるだろう。

 

自らアイデアマンになるのではなく、他人からアイデアを引き出し、実現するリーダーになろう。

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