業務改革リーダーの心得

オフィスの現場で業務改革に取り組むリーダー達へ、壁を乗り越えてゆくためのノウハウや心得をお伝えします。

業務改革にプロジェクトマネジメントは必要か

一般に、ある程度以上の規模のシステム構築では、プロジェクトマネジメント(以下、プロマネ)が必須とされる。そのための方法論もさかんに研究・発表されているが、中でもグローバルスタンダードとして著名なのは、米国の非営利団体PMIが策定しているPMBOKである。世界中から集めた方法論やツールのベストプラクティスを、スコープ、タイム、コスト、品質…など10の切り口で整理し、エッセンスとして凝縮している。もとより読み物というより、辞書的なものなのだが、その分量は半端ではない。さて、これを通常の業務改革プロジェクトでどこまで使えるか、あるいは使うべきか、である。

業務改革もPMBOKの定義からいえばれっきとしたプロジェクトである。しかし、大規模システム構築などを伴わない、業務そのものの業務改革において、プロマネは必要だろうか。

結論からいえば、「ある程度」は必要である。どの程度か。最低限、やるべきことに抜け漏れがない程度に、である。

 

1.TODOリスト

1人で身の周りから始める業務改革程度では、まずプロマネは必要ない。PMBOKなどの方法論の特徴の一つは、プロジェクトの推進において、課題の整理、合意内容の確認、経緯の記録などにドキュメントを多用することである。しかし、個人で行う取り組みであれば、大抵、自分自身で課題を把握・整理し、記憶し、管理できる。つまり、ドキュメント化する必要がない。

ただし、やるべきことが多くなると忘れてしまうことも出てくる。そこではじめて必要になるのが、やるべきことを列挙したTODOリストである。さらに、業務改革を組織の仕事として行うようになると、期限を示すことが必要になってくる。忘れないよう、TODOリストに期限を書き込む。週に一回、進捗をチェックする。実のところ、業務改革の個々のテーマのプロマネはほぼこれで用足りてしまう。

 

2.WBS(Work Breakdown Structure)

さらに、規模が大きくなり、あるいは複数のテーマが組み合わさり、数ヶ月以上の中長期で取り組むことになった場合、組織内での中間的な進捗報告も必要になってくる。こうなったら、TODOリストの項目をいくつかの段階に分けて、それぞれの期限を書き込むようにしていく。作業範囲が拡がれば作業内容を追加し、作業の量が多くなれば段階に分けて分解してゆく。項目が増えてくると見ずらくなってくるので、ある程度のまとまりごとに分類分けする。

これがPMBOKでいうスコープマネジメントの中核となる、WBSと呼ばれるものの原型だ。これを週に一回程度、メンバー間でチェックする。あとは、規模が大きくなっていっても、その分解された項目や分類の数が増えていくだけである。

 

3.ステークホルダー(利害関係者)リスト

ここで、視点を変えてみる。業務改革を進める過程では、様々な利害関係者との調整が必要になる。このとき調整先が漏れていると、あとで思わぬ足止めがかかったり、感情的なしこりが残ったりする。ステークホルダーの数が多い場合は、忘れないよう、ステークホルダーリストを作る。

また、ときにステークホルダーの利害関係が広範囲に及び複雑に絡み合う場合がある。そして、その関係性を上司などに理解してもらい、ときに説得工作に動いてもらう必要も出てくる。そんなときは、さらに、関係性を図で整理してみる。PMBOKの「ステークホルダーマネジメント」になると、もっと戦略的に関係性を捉えて計画化していくのだが、通常のプロジェクトで必要になるのは、まずここまでであろう。

 

4.業務改革で必要なプロマネ技術

だいたい以上である。つまり、業務改革に必要なプロマネは、①1人で取り組むうちはTODOリストが、②複数人・数ヶ月以上のプロジェクトになったらWBSが、③利害関係者が覚えきれないほどに増えてきたらステークホルダーリストがあれば、ほぼ用が足りてしまう。
もちろん、業務改革に大規模なシステム構築や技術開発などハコモノが絡むようになると、そう簡単にはいかなくなる。カネがかかるからである。カネがかかる以上、無駄は許されない。可もなく不可もなく、予定通りに達成するのが、プロマネが定義する成功である。このため、方向性としては、計画からのブレをなくすことが価値であり、無理をしてプラスの価値を生むことはプロマネ的には、失敗とさえ言える。(注:PMBOKでも当初計画の変更を否定しているわけではなく、「変更管理」は重視されている。しかし、積極的に肯定はしていない。)

 

5.業務改革プロジェクトの特徴

対して、業務改革は、真の課題を探ってゆく、一種の「探求」の過程なので、ダイナミックにプロジェクトそのものを変えてゆく傾向を持つ。取り組み方も、取り組む内容も、ときにはゴールさえも、生き物のようにどんどん変わっていく。問題の本質を発見し、現状からの飛躍の可能性が見えたら、ときには当初の狙いを遥かに飛び超えて、大きな成果を狙いにゆく。それを達成すれば、その成果の大きさに応じて評価される。つまり、プロマネと業務改革の間では評価される軸が異なり、本質的なところで価値が相容れないのだ。

業務改革でも、最終的な目的やビジョンはブレてはならない。軸の定まらない、行き当たりばったりの改革など誰も相手にしない。しかし、いったん決めた達成の仕方、道すじに拘ってはならない。業務改革では、精緻にプロマネ計画を立ててもまず意味がない。それどころか、計画に縛られ過ぎていると、せっかくの機会を逸してしまうことがある。プロマネに時間を使っているくらいだったら、多少のボロがあっても、一つでも多くの改善をしたほうがよいこともある。

 

業務改革においてプロマネとは、大失敗をしないための安全弁であって、それ以上でも、以下でもないのだ。

 

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