業務改革リーダーの心得

オフィスの現場で業務改革に取り組むリーダー達へ、壁を乗り越えてゆくためのノウハウや心得をお伝えします。

業務改革のすすめ方:基本編(5)

(つづき)

ステップ5)承認獲得と解決策の実行

解決策が固まったら、組織承認を獲得し、あるいはこれと並行して、実際の解決策の実行に入る。改革がシステム投資や組織改編を伴うような場合は、この承認獲得も当然、一筋縄ではいかなくなる。他方で、承認取り付けの段階では既に実質的な改革の準備が完了しており、形式的・公式なGOサインを得るだけの場合もある。

 

こうした場合でも、他部門からの横槍が入らないよう気をつけておく必要はある。承認者は、自らが主導する改革でない限り、他部門のケアまではしてくれないからである。全てがトップダウンで決まるような組織でない限り、事前の根回しは、どの組織でも必要である。他方で、むやみに調整の範囲を広げてもいけない。本来は黙認できたはずなのに、承認を求められたがゆえに、反対せざるを得ない状況になってしまう場合もあるからである。このあたりは組織の力学を知悉した先達によく相談することだ。

 

もちろん組織のルールに抵触するような誤魔化しもしてはならない。あくまで公明正大に、生真面目に取り組むべきである。特に不正行為は、それが発覚したときの報いからして、到底割に合うものではない。また、仮にバレなかったとしても、その人の人格や品位を知らずしらず損なってしまう。そうした行為に手を染めるくらいであれば、改革はきっぱり諦め、次の機会を待つ方が、長い目で見れば組織内での信頼を高め、将来もっと大きな仕事の機会にも恵まれるようになる。

 

次に、改革によって、売上や原価に影響が生じたり、システム改修に予算がかかってくる場合である。この場合、経営層/幹部層への説明・説得が最重要課題となってくる。それがうまくいくかどうかは、現場での調整以上に、運に左右されるところが大きい。経営状態、経営方針、経営者のポリシー、同業他社の動向、社会経済の環境など、業務改革リーダー1人では如何ともしがたい外部要因が大きく影響する。

 

ここまでは、他の投資判断の場合と大きく変わるところはない。他の場合より難しいのは、業務改革の効果は目に見える形では示しにくいというところである。どうしても、リターンがはっきり見える案件より後回しにされがちであるし、財政が厳しくなったとき、真っ先に削られるのもこうした業務系の予算である。誠に辛いところだが、これは業務改革リーダーの宿命として受け容れつつ、知恵を絞って、投資対効果に見合うということを、一つひとつ材料を積み上げて説得していくほかない(業務改革の効果の「見える化」については、いずれまた別の機会に触れることにしたい。)

 

さて、首尾よく組織の承認が得られたとしても、業務改革では、最後まで気を抜くことはできない。最後の最後の段階で発覚したわずかな問題によって、改革プロセスそのものがとん挫することも珍しい話ではないからである。これはどんなに業務に熟達した者であっても、100%避けることはできない。したがって、承認獲得の段階では、許される限り、リーダーが柔軟に急場を乗り切れるよう、最終的な決定における裁量の余地を残しておいた方がよい。また、不確定要素があるときは、そのこともはっきり伝えておくべきである。これは、万が一、改革がとん挫した場合に、承認者に恥をかかせないための配慮でもある。

 

もう一点、改革に当たっては、見直し後の業務が円滑にまわるよう、気配りを尽くして準備をしておく。せっかく素晴らしい改革をしたのに、実行段階での配慮が不足したために不評を買ってしまうことは少なくない。次の改革を円滑に進めるためにも、避けられる軋轢は避けるよう努めるべきである。

 

最後に、業務改革の過程では、かなりの量の資料を集め、書類を作成することになる。これらのデータはきっちりと整理して保存しておこう。業務改革の経験は組織にとって、掛け替えのない財産である。ここで見つけ出した改革の糸口は、後進の業務改革リーダーにとって、何者にも替えがたい贈り物、遺産となる。将来、再度の見直しをする際に必ず役に立つことだろう。そのとき業務改革リーダーの名前は、一つの「伝説」として語られることになる。

 

<おわり:基本編シリーズ>

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